あれは1994年くらいのことだったと思うんだけど・・・
私は当時ツアーガイドをしてたんだけど、
その会社というのは、前日にならないと次の日の仕事の内容がわからないという
すごいめちゃくちゃな会社だった。
わたしは、その日は、5時間のチャーターの仕事と聞いていた。
その会社は、バスも持っていて、
その日のオーダーはバスのチャーターで
ガイドもつけてくれという内容だった。
オフィスにいって・・・超びびった・・・
だって・・・お客さん、アメリカ人だっていうんだもん。
ええ~~~~~~~~~~~!!!
英語でガイドなんてできない!!
(今でも怪しいけど、当時NYにきて、2年経つか経たないか)
すると・・・
「これはなんか、ローリングストーンズのコンサートのために、
どっか地方からきた金持ち軍団らしいんですよ。
バスの中で飲み物のサーブをするだけでいいらしいですから、
心配しないでいいですよ。」
と言われた。
しかし・・・ホテルは、
The Mark。
NYの高級ホテルというと、Plazaや、ピエールと言う人が多いけど、
実は、このThe Markは、セレブや大金持ちの隠れ家的ホテル。
その昔、ジョニー・デップと、ケイト・モスがここの1室で大喧嘩して、
お部屋を大破壊して、警察を呼ばれたのは、有名なお話。
さて・・・ホテルにいってみると・・
すでに、バスがきていて、今日のドライバーは誰かな~?と思うと・・
ジミー(白人)だった。
え??なんで、ジミーなの??
このジミーというのは、ディスパッチ(バスの配車係)で普段ドライバーなんてしてない。
「Hi!ジミー!」と声をかけると、
「Hi!元気?」と彼はにっこり言いながら、
なにか大きな箱を、ホテルの人とバスに積み込んでいた。
「これ、何?」と聞くと、
「お客さんがバスのなかで飲むシャンペンだよ。」と言った。
げげげ・・・どんな客じゃ・・・・しかもすごい量。
そして・・時間になって、お客さんが乗り込んできた。
みんな年齢は、多分、50代以上で、
腕には金ぴかダイヤきらきらきらりんRolex。
そのなかに、2人だけ、若いアジア人がいた。
全員がバスにのりこんで、
コンサート会場のジャイアンツスタジアム(ニュージャージー)にむかった。
バスが走り出すと・・そのなかのひとりが、
「シャンペン!」と言った。
あわてて、シャンペンをコップにいれてもっていくと・・
うけとったおっさん・・・なにも言わない。
このおっさんからみたら、わたしはどうみても、子供。
いや、当時のわたしは25歳で、
アメリカ人からみたら、中学生か高校生に見えたはず。
だからかな~?と思っていた。
そのあと、続いて、
「シャンペン!」の声が相次ぎ、あわててシャンペンを持っていくが
どいつもこいつも、「Thank You」を言わない。
まあ、おうちで使ってる使用人と同じ扱いなんでしょう。
そして、このシャンペンの栓が上手く抜けないビンがあった。
このシャンペンの置き場所(一番後ろ)の一つ前に座っていた
さっきのアジア人2人があけてくれた。
またその後も、「シャンペン!」の相次ぐ声に、
あたふたとしている私のお手伝いをしてくれた。
一段落すると、彼らは、
「君は、日本人?」と聞いてきた。
「そうです。あなたたちは?」と聞くと、
「ぼくらは、コリアンアメリカン(韓国系アメリカ人)」
と答えた。
コンサート会場に到着して、ジミーが、
「チケットがあるから、一緒に見ようよ。」と誘ってくれた。
じつはその時、ストーンズってまったく興味がなかった。
でもとりあえず、せっかくお誘いいただいたので、
一緒に行くことにした。
ジャイアンツスタジアムというのは、フットボールの「ジャイアンツ」のホームグランド。
コンサートがはじまって・・・・
会場は大盛り上がりだけど・・・
私たちが座った座席が、1番上で、
また大きなスピーカー側だったせいなのかどうか知らないが、
音が跳ね返って、二重に、「こだま」しているように聞こえる。
それがすごく不快で、「ブラウンシュガー」を聞き終わったところで、
ジミーに、「バスに戻っていていいかな?」と言って、
バスに戻った。
そして、バスに戻り、ウォークマンでHip-hopを聞いていた。
今思うと・・・・なんてもったいないこと・・・・
しっかし・・・長いコンサートで、アンコールアンコールで
時計はすでに、1AMすぎ・・・
まじかよ~・・・明日、仕事早いんだよぉ・・・はやくおうちに帰りたい・・
と思うと・・・ジミーがお客さんたちと帰ってきた。
やっと・・・帰れる~~~!!
と思いきや、のりのりのお客さんたちは、駐車場で歌いながら大騒ぎ!
頼む・・はやくバスに乗ってくれ・・・
と思っていると、さっきのコリアンアメリカンの男の子2人と
このグループとは、ちょっとあわない地味目の白人のおじさんが
私に話し掛けてきた。
3人で話していると・・・
ノリノリによっぱらった一番偉そうなおやじが、近寄ってきて、
「ローリングストーンズって知ってるか?
君(おまえ)の国では、知らないだろう?わっはっはっは!」
と大声で笑った。
その瞬間・・・わたしは固まってしまって、何もいえないでいたら、
その地味目の白人のおじさんが、にっこり笑って、
「知ってるよね。」と言ってくれた。
首をこくりとたてにふって、
わたしは涙がでそうになったのでバスに先に乗り込んだ。
バスがホテルに到着すると、
おじさんたちは、ジミーに「Thank You!」と言って、
チップを渡して降りていった。
コリアンの彼らとさっきの白人のおじさんだけが
私に「Thank You!」といってくれた。
そのおじさんは、「Rolex」をしてなかった。
ジミーがわたしを気の毒そうにみて、
「このチップ、半分ずつしようよ。」
といってくれたけど、
「ううん。それはあなたがもらったものだから。
でも、気持ちだけありがとね!バイバイ。」
といってジミーにさようならした。
次の日、オフィスにいって、
「あんな仕事、アサインすんじゃね~よっ!!」
とディスパッチの野口さん(男性-わたしはこの人には強気だった)にやつ当たりした。
私もまた彼らと同じ・・・
「弱者」であった。